N3437BM-114
hsadas

【要注意】
9話連続で更新しております。
最新話は「42:次世代」からとなります。

ご注意ください。




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50:新時代


「……」


目を覚ました時の、静けさ。
そして、何かを得て何かを失ったかの様な、ぽっかりした気持ちと、僅かな切なさ。

窓から見える空は燃える様に真っ赤で、今が夕方である事を教えてくれた。
昨晩あまり眠る事が出シューズ 通販Adizero
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来なかったとはいえ、こんな時間まで寝てしまって、皆さぞかし呆れているのではないだろうか。

僕は隣で寝ているベルルを見つめ、その頰に触れた。
まだ涙の跡もあるけれど、今は穏やかな表情で眠りについている。

「……ベルル」

ベルルは僕を受け入れてくれた。
この小さな体で、精一杯受け止めてくれた。

これで僕たちは、正真正銘の夫婦だ。

「ベルル……愛しているよ」

僕は小さく囁いて、彼女が寒くない様、首もとまで布団をかぶせる。
自然と目が覚めるまで寝かせてあげたい。もし良い夢を見ているなら、それを途中で止めてしまわない様。

「……旦那様……」

ところが僕が寝台を降りようとした時、ベルルが背中に触れ、僕を呼んだ。
結局彼女は起きてしまったのか。

「ダメ。行っちゃダメ」

「……ベルル?」

「ダメよ……?」

ベルルは布団からそのぱっちりとした瞳だけを覗かせ、僕を見上げていた。
あまりに見つめられ、思わず色々と思い出して顔が熱くなる。

「そ、その……えっと。大丈夫かい、体は、キツくないかい」

「……うん。だけど、起き上がれないの。旦那様、お布団の中に入って?」

「……」

ベルルはポッと頰を染め、視線を逸らす。
その仕草がどこか色香を帯びていて艶っぽく、僕は思わず目眩が……
ただただ彼女の望みのまま、再びふらふらと布団の中に潜り込む。

「旦那様……あ、あのね……ありがとう」

「……ん?」

「迎えに来てくれてありがとう、旦那様」

「……」

僕の肩に手を置いて、身を寄せ、彼女は僕に礼を言った。
僕は少々瞳を細め、小さくため息。

「だけどベルル。君、僕の事を“いらない”って言ったんだよ。僕はもう、ショックで死んでしまいそうだった」

「……そ、それは、私……っ」

「酷いよ、ベルル」

「う、うう……っ。だって私、なぜだか旦那様の事、覚えていなかったんだもの」

「僕の事を、初めて会った“おじさん”って言うし、君を連れて帰るのも何だか戸惑われたよ」

「だ、だんなさま……」

「一瞬、置いていこうかと」

ベルルは蒼白な顔をして、ガタガタと震える。
意地悪を言ってしまったが、勿論僕は、ベルルが本心から僕の事をいらないと言った訳では無いと分かっていた。
ただただ、可愛いからからかっているのだ。

「いやいやっ! 置いてかないで旦那様ぁ」

ベルルは必死に僕の腕を胸に抱く。
ああああ、やめてくれベルル。素肌が、素肌が……

「う、嘘だよベルル。僕は君を何としても連れ帰るつもりだったとも」

「う〜……っ」

「よしよし」

目の端に涙を溜め、必死になって僕に縋るベルルが、いつもながらに愛らしく、そして愛おしい。
変わらない、僕の妻だ。

「さあベルル。そろそろ起きよう。湯を浴びて、夕飯を頂こう。……きっとみんな、君の事を心配しているよ」

「……うん」

「今日から、魔王様が変わったんだ。時代の節目だよ」

「……」

僕はもう一度起き上がり、着物を着直して、寝台から下りた。
しかしベルルはなかなか起き上がらず、困り顔で僕に両手を伸ばすだけだ。

「連れてって旦那様」

「……」

僕は一度大げさに咳払いして、彼女を起こしてあげると、着物を着せ直し抱え上げた。
ベルルは僕にべったりとくっついて、クスクス笑う。

僕らは部屋の隣にある小型の浴場へ向かい、今日ばかりは僕がベルルの背中を流してあげ、何もかも世話した。ベルルは常に僕にべったりで、僕としては内心穏やかではなかったが、彼女の安心しきった甘い表情を見ていると、心から愛おしいと、彼女を守りたいと言う思いが溢れて来る。

世界はこの日、新しい時代を迎えた訳だが、僕ら夫婦も似たようなもの。
人知れず新しいステージへと歩んだのである。











「へえ。珍しいですね、赤いご飯なんて」

「おほほ。お赤飯と言うのですよ。お祝いの日に頂くのです」

「ああなるほど。新魔王の誕生のお祝いなのですね」

「……おほほ」

ミスティさんはコロコロと笑いながら、宴の準備をしていた。何だかとても楽しそうだ。
この日、新しい魔王の誕生と言う事で、東の最果ての国は大きな歓喜に包まれていた。

明日正式に、王位の継承の儀式が執り行われるらしいが、既に実権を握っているのはテオルさんで、現魔王と呼ばれていたフラン様は、ただのフラン・エーリードとなってしまっていた。

フラン様は肩の荷が下りたのか、穏やかなホッとした様子で、先代魔王としての様々な後処理業務に勤しんでいた。

そして、新しい魔王となったテオルさんはやはり凄い人らしく、魔王の座に着いた側から、ほぼ完璧にゲートを管理し、東の最果ての国に少しの混乱も起こさなかったようだ。
それで居て飄々としているのだから、やはりとてつもない逸材である。

僕ら夫婦に何か手伝える事があった訳でもなく、ただ今夜の宴会を楽しんだだけ。
心苦しくもあったが、皆がそれで良いと言うので、お言葉に甘えてしまった訳だ。

何だろう。大魔獣たちが僕らを見る視線がこそばゆい。
皆意味も無くにこやかで、口がVの字。だけどサンドリアさんの視線だけはいつにも増して殺気に溢れたもので、僕は背中を何度となく気にした。







翌日、魔王継承の儀式が執り行われ、王錫と王座は正式にテオルさんのものとなった。
魔王交代の知らせは二つの世界を駆け巡る。

テオルさんは魔界に向け、最初の声明を出した。

「東の最果ての国は人間界の協力を得て、銀河病の特効薬を開発した。この薬を規定通り順次魔界へ送り届ける」

この声明に魔界の民はどれほどの希望を得たのだろうか。
テオルさんなら、僕のつくったこの薬を、争いの火種とする事無く魔界へ送り届けてくれるだろう。
そしてこの薬こそが、東の最果ての国の、テオルさんの治世を確固たるものにする重要な役割も担うのだ。





「ほら、ベルル」

「……」

ベルルをテオルさんの元へ連れて行った。
一応彼女とテオルさんは兄妹である。

何故かベルルは恥ずかしがって、僕の後ろに隠れていたが。

「……まあ、今更兄妹と言われても困ると思いますので、今まで通りで結構ですよ」

テオルさんは困った様に笑って「ねえ」と。

「僕もベルルロットさんとお呼びしますし。今更兄と呼んで欲しいとは……」

「……お兄様?」

「……」

ベルルは不意打ち気味に、僕の背から顔を出して、テオルさんの事をお兄様と呼んだ。
テオルさんは少々固まる。

ベルルは僕を見上げ、再び僕の背に隠れる。

「……ふんっ。何よ、別に今更」

その様子を面白く無さそうにして見ていたのが、スペリウスことペリーだ。
彼女は腕を組んで、分かりやすい程に嫉妬している。

「良い事、ベルルロット様。テオル様は私のお兄様って事になってるんだからね! 別にベルルロット様もお兄様って呼んだってかまわないけれど、私を差し置いてー」

「こらこら、ペリー」

テオルさんはペリーの頭をポンポンと押さえる様にして撫でた。
ベルルはおろおろと、彼の方を伺ったり、僕を見上げたりしていた。

やはり馴染まないか。

「そのうちに、慣れていくよベルル」

「ほんと?」

「ああ。血を分け合った兄妹なんて、そんなもんだよ。……今は慣れないかもしれないけれど、何度も意識していれば、それが当たり前になるんだから。僕の時もそうだっただろう?」

「……うーん、旦那様の時は、すんなり旦那様ってなったわ」

「そ、そうかい」

「……うんっ」

ベルルはニコリと笑って、頷いた。

でもやはり、せっかく兄妹が再び巡り会えたのだから、絆を繋いでいたいものだ。
シャーロットさんも、旧魔王も、それを願うだろう。



ここは、東の最果ての国。
ベルルとテオルさんが生まれた国。シャーロットさんと、旧魔王が出会った国。

大魔獣たちの守るべき国。
僕とベルルの辿り着いた国。

そして、僕らがこれからも関わり続ける、大切な国である。
僕が銀河病の薬を作り続ける限り。ベルルが旧魔王の娘である限り。
テオルさんが新しい魔王である限り。

いつの間にか、僕らはここへ導かれ、繋がれたのだ。


シャーロットさんが望んだ、絆のまま。
僕は、僕の薬は、その絆を一つでも担ったんだろうか。

それならば、僕がベルルの夫となった意味は、確かにあったのだろう。


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9話連続爆撃投稿、申し訳ありませんでした。

次回の投稿により、完結となる予定です。
どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いします。

N4527BC-67
hsadas
Sense67

 目を覚ましたのは、昨日と同じ時間帯だと思う。薄ぼんやりとした視界がログハウスの隙間から洩れる光を見た。

「……朝か。朝食作らないとな」

 今朝は、十人分と幼獣五匹分だ。昨日みたいにセルフで焼いて食べてください、なんて方法の食事では使用する食材が偏る。
 今は、小麦粉が使い切れないほど大量にあるのだ。それを有効活用しないと、他の食材だけではどうも心もとない。朝一番で、何が必要か頭で整理しながら、体を起こす。

「小麦粉はある。朝出現するMOBは、鶏だから、卵と鶏肉だよな。あとは……野菜はあるからサラダで、フルーツでも切れば良いか。デザートのゼリーもあるし……」

 立ち上がると、昨日と同じようにクロードが居ない、また徹夜でもしたのか、と思い扉に手を掛ける前に開く。

「……おはよう、クロード」
「ああ、おはよう。そしてお休み」

 それだけ言うと、クロードは、泥のように眠ると表現するのが正しいと思えるほど綺麗にベッドティンバーランド靴
ティンバーランド ブーツ
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に倒れ込む。ぼふっという鈍い音を立てて、すぐに寝息を立て始める。

「見張り番が辛いなら変わればいいのに、まあ、安心して寝られるからありがたいか」

 そう言いながら俺が外に出ると、トウトビがすでに起きている。短剣を片手に架空の敵を相手にしている。
 右へ左へ、前に後ろに、と移動系センスを利用して、残像を残しながら虚空の一点を短剣で突く。

「朝から張りきってるな」
「おはようございます、ユンさん」
「他の人は?」
「みんな寝てますよ。私が起きてきたので、クロードさんと交代したんです」
「そうか。じゃあ、俺は朝の一狩りに行ってくるよ」

 防具は、昨日の白いワンピースのままで肩に弓を背負う。

「この時間帯ですか?」
「そう、朝食に必要な食材を取りに行ってくる。一時間くらいしたら戻るから」

 そう言って、ひらひらと手を振り、ベースキャンプを離れた。昨日と同じ場所に出現する鶏を弓で屠りつつ、森の中を散策する。
 ただ、防具の補正が大きかったのか、感覚の差を埋めるのに、何射か外してしまった。改めて防具の恩恵を身に染みるのだった。
 そして散策では、フルーツとしてリンゴやイチゴ、木の上を見上げれば、蜂の巣。また薬草類やハーブも採取しつつ戻ってくる。
 多分、今までの傾向から牛乳は存在し、牛乳をドロップする奴が居ると思うんだ。だけど、未だに見ていない。今日あたりに掲示板のMOB報告所を目を皿のようにして探してみるのもいいかもしれない。
 昨日が濃密過ぎたのだ。今日くらいゆっくり過ごしたいと思う。

 そうしてベースキャンプに帰ってくれば、既に起きている人もいた。
 テーブルの端に寄りかかり腕を組んで、朝の素振りを見守っているマギさんとその腕に抱きかかえられるリクール。そして、新しい剣を手にするルカート。
 ルカートの剣は、片手持ちにしては大きく、幅が広い。また両手で持つ分には、やや重量感が足りない感じのする片手剣――分類上、バスタードソードと呼ばれる種類だろう。
 装飾は、極力抑えながらもどこか品のある雰囲気は、ルカートの普段の様子と相まって違和感がない。
 新たな得物を手に軽々と繰り、時折両手で握りしめての振り抜きは、剣圧だけで周囲の草を散らすほどだ。

「おはようございます。出来たんですね、ルカートの剣」
「ユンくん、おはよう。うん、昨日の夜には出来たんだけど、疲れちゃってチェックを今してるんだ。ルカちゃん、それでどうかな?」
「はい、イメージ通りです。私は、速度よりも一撃を重視するタイプなので、今までの剣が少々軽過ぎたんですね」

 そう呟くルカートは、ふぅと脱力し、剣を仕舞う。

「それじゃあ、今から朝食の準備するけど……リクールとリゥイは料理手伝ってくれる?
「わんっ!」
「……」


 俺の声を聞いて、マギさんの手の中からするりと抜け出すリクールと藁の敷かれた寝床からのっそりと起き上がるリゥイ。

「ユンく~ん、朝食のメニューは何?」
「そうですね。小麦粉と狩りたての卵、スィーツ・ファクトリーにベーキングパウダーがあるので、簡単にホットケーキなんかで良いんじゃないですか? 生地だけ作れば、後は焼くだけですし」

 そう言いながら、エプロンを着け、ストーブやコンロに火を点していく。
 取り出した小麦粉と卵、ベーキングパウダー、砂糖にリゥイの生み出した水を加えて、泡だて器でダマにならないように掻き混ぜる。その間、リクールには、昨日作ったゼリーを冷やすのに協力して貰った。
 だけど、一人で十人と五匹の朝食を用意するのは骨が折れる。
 複数のフライパンで同時に焼き進めると言っても、結構な数。焼くだけで朝から疲れそうだ。
 焼き上がる片手間に、素手で野菜を千切り、お皿に盛りつけたり、溶き卵をフライパンで炒ったり。忙しなく動いた。
 出来た食事は、生野菜のサラダ、スクランブルエッグとフルーツ、デザートも付けたホットケーキ。今朝見つけた蜂の巣から採れたはちみつも瓶詰めでテーブルの中央に乗せる。
 起きている人だけでも朝食を食べさせ、俺は、一人で焼き続けて、出来上がったものをインベントリの仕舞い、保温。新たに朝食の席に着く人が居れば、取り出す。
 全員が起き出し、準備を終えた時には、やっと俺が食べられる余裕があった。世のお母さん方、本当に朝一度に起きてほしい理由が分かります。インベントリの状態保存が使えなかったら、実に面倒くさい。いちいち、起きた人に合わせて焼かなきゃいけないからだ。

「朝から、疲れた。流石に十人と五匹は多い。今日でも料理の作り置きしとくかな?」

 そう言いながら、どさっ、と木製の椅子に腰を掛ける。
 マギさんがそんな俺に水の入ったコップを差し出してくれる。

「おつかれさま。大丈夫?」
「辛いですよ。インベントリで保存できるから今日明日、料理の作り置きでもして、残りの日数を探索中心に据えるのが良いかもしれません」

 今の率直な感想をうんうんと相槌を打つマギさん。互いに並んで、朝食を食べる。口に含んだ、ホットケーキは、生地自体のほんのりした甘味とはちみつの噎せ返るような強い甘さに少し元気が出た気がする。
 その後も、少しずつ食べながら、昨日保護した黒い子狐を観察する。
 警戒心を持ったまま出てきたが、空腹に勝てない様子で、小さく切り分けられたホットケーキを食べていく。距離感は、俺たちプレイヤーよりも同じ幼獣たちと寄り添う傾向に強い。特に体の大きいリゥイにべったりだが、リゥイ自身嫌がっている様子はない。

「食事をしながらでも良いからちょっとミーティングをするぞ」

 そう声を掛けるのは、クロードだ。倒れるように眠ったのに、二時間の仮眠とも言えるような短い睡眠を終えて、最後に起き出し、朝食の席についている。この男、よくそんな短い睡眠で健康に害がないな、ゲームだからそんなものか。と思ってしまうが、リアルでやるのならば心配が尽きない。

「うん? どうした、ユン。俺の顔になんか付いてるか?」
「いや、よくあんな短い睡眠で平気だな。と思ってな。まあ、話を逸らしてスマン。そのまま続けていいぞ」

 そう適当に誤魔化しながら、自分の作ったブルーフルーツゼリーを口に含む。スカッとするブルーハワイ味。フルーツの生の食感が少し落ち込んでいた朝のテンションを盛り上げてくれる。

「それじゃあ、今日の予定を話す。俺とマギは、少し個別で各ベースキャンプを回ろうと思う」
「それはなぜ?」
「インフラの整備とでも言えばいいか。昨日の夜、掲示板で大方の流れを見たんだが、生産職の支援が受けられずにいる人が多いようでな。今日は、知り合いの生産職にどういう役割で戦闘職を支援するか決めるんだ」
「生産職は、生産センスのレベルが上がって美味しい。戦闘職は、安心してサポートが受けられる。みんな幸せだよ」

 既に一部では、そういう請負みたいなことをやっている人が居るんだろう。と俺の顔に出たのだろうか。クロードが言葉を継いでくれる。

「まあ、最初は動くつもりはなかったが、釣り合いの取れていない交渉が話題になってな。ダンジョンで取れたアイテム全部と引き換えに修理。のような話は極端だがそれに近い話だ。そういう輩は相手にされてないが、流石に、見過ごせなくなっているからな。多少ネームバリューの強い俺たちが少し行ってくる」
「ふ~ん。お前の場合多少なのか? まあ、大変なんだな。俺に関係あるか?」
「ないね。ユンくん、掲示板でポーション作成を請け負うつもりないでしょ? 大体やり取りの流れとしては、掲示板に、生産職の分類と対応してくれるベースキャンプ地を掲載。それぞれが欲しい報酬を記載、プレイヤーは、自分の見合う条件で探して交渉する。みたいな感じだから。掲示板を使わない人には関係ないし、強要もしないよ」

 俺は、顎に手を当てて考える。時間を費やすだけのメリットはあるのだろうか? と。
 請け負えば、俺の名が多少知られて【アトリエール】の宣伝になるだろう。それに、俺個人の時間を利用せずに欲しい物を手に入れられる。
 だが……それは、双方の意見が擦り合わせることができた場合だ。
 他人と交渉するのが苦手なら、タクかミュウたちのパーティーにでも同行してこの浮遊大陸を見て回るのもいいだろう。おもに回復薬的な役割で。

「うーん。どうするかな? 材料持ち込みとかならやってもいいかな?」

 空を仰ぎ見て、考える。動かずに安全と益を得るか、リスク覚悟で冒険するか。悩んで、ふと視線をめぐらせる。横には、リゥイとその背中に乗る子狐の幼獣。
 そうだよな。リスク犯して、こいつらと離れるよりは安全を取った方が断然いいかな。

「じゃあ、俺もやってみるか。それに利益ないと思ったらすぐに止めればいいし」

 その言葉を聞いて、マギさんがなんとなく、安堵の表情を浮かべている。

「いや~、助かるよ。やっぱり調合センス持ちは居るけど、ユンくんほど力入れているプレイヤーって少ないから」
「それって遠まわしに、俺が普通じゃないって言ってませんか? ねぇ」

 そう言うと、あはははっ、と乾いた笑みを浮かべて視線を逸らすマギさん。まあ、別に良いんだけどさ。

「後は、スマンが、ユンの防具の修理はまだ終わっていない。今日中には終える予定だ。と、言うことで話は終わりだな」

 その言葉を聞いて、俺たちの話し合いは終わった。
 その後は、特筆すべきことはあまりない。
 ルカート達に製作したポーションを渡し、装備や気持ちを新たに東の遺跡攻略に向けて出発したり、マギさんから鉄鉱石や宝石の原石を分けて貰ってから簡単なお弁当を二人に渡して送り出した。
 そして、留守番の俺とリーリーは、それぞれの生産活動に励む。
 俺は、料理を、リーリーは木工を。
 料理では、小麦粉と水、塩を捏ねて生地にする。
 この捏ねる作業は、使う小麦粉の量と相まって、とても力を必要とした。
 解決策としては、常時エンチャントによる強化をすることで理想とする捏ね方をすることができた。そうしてできた生地は、麺棒で伸ばし切ることで、程よいコシと弾力を持ったうどんへと変貌するのだった。
 一玉ずつ、小分けにしてインベントリに保存されたうどんは、四人と五匹が二日を凌ぐのに十分な量である。
 対するリーリーも自身の活動。とは言いながらも、明らかに大掛かりだ。
 丸太から木材を切りだし、屋根つき、壁なしの小屋を組み上げていく。

「なぁ、リーリー。なに作ってるんだ?」
「リゥイっち寝床だよ。シアっちや子狐たちのように体が小さくないからそれに対応する寝床が必要でしょ。ほら、もうじき完成」

 そう言って、自分の身長よりも大きな木材を軽々と持ち上げ、ログハウスの横に併設していく。

「あとは、藁を敷けば完成だよ。ほら、リゥイっち」

 少し離れたところで目を閉じていたリゥイが視線をそちらに向けて、馬小屋を確かめる。
 じっくりと観察しながら近づき、敷かれた藁の上に座り、寝心地を確かめている。馬小屋は、日陰になり、ちょうど涼しそうな場所だ。リゥイの側を離れたくない子狐もトコトコとリゥイの側に掛けていく。 一緒に俺たちと留守にしていたリクールやクツシタ、ネシアスも新たな場所に興味があるのか、幼獣五匹が一か所に固まって、気持ち良さそうに目を細めて、その場で眠り始めた。

「俺たちも少し休憩するか?」
「そうだね。あっ、おやつ残ってる?」
「ゼリーで良いか? 飲み物は……ハーブティーだけど良いな」

 そう言いながら、幼獣たちを眺めながら、午前のティータイムと洒落込む。

「午後は、どうするか……昨日みたいにトラブルに巻き込まれたくないし、今日は大人しく生産活動に明け暮れるかな?」
「ユンっちは本当に多彩な生産センスを持ってるから暇にならないよね。調薬、料理、細工と」
「まあ、自分でも手を広げ過ぎた気がするが楽しいぞ。午後は、そうだな。イチゴが少し数があるから砂糖と水でジャムにでもするかな。今朝のホットケーキは、はちみつ以外にも別の味が欲しかったし」
「ユンっち、意外と食いしん坊さん?」
「失礼な。食い盛りの幼獣たちが居るからなるべくレパートリーを増やしているだけだ」

 くすくすと笑うリーリー。その後は、二人で掲示板を眺めらがら、言葉を交わす。次はどの辺を探索するか、とか、人の失敗談を読み上げて笑ったりとか。
 だが、一言言うなら、食べ物関係の話が酷い。タイトルに【オレのパーティーが飯マズな件について・その2】という所は、互いに不幸自慢をしている。
 レベル1でスキル【調理】で折角の食材が炭素化した、運よくその一部が成功しても、NPC以下。自力で調理するのに、火がなくて、火の魔法を放ったら食材が……仕方がないので生で食べるとこれまたうまい。と腹抱えて笑うと言うよりも苦笑、失笑が零れる。
 掲示板の利用は、住み分けがなされ、整然としているので見やすいが、流石に昨日よりも情報の量や更新が多く、確定情報だけを纏めたスレッドも立っていた。
 その中には、昨日の事件の話もあった。

「『昨日、セーフティーエリアで火災。原因は……黒の幼獣とその使役者。リタイア数不明。被害多数』か」
「嫌な事件だったね。ユンっちやその友達は大丈夫?」
「平気だろ。ただ……な」

 それに続く話は、解決者が白の幼獣とその使役者で美少女。とか、美少女だけのパーティー、だとかなんか無駄に注目されているようで、変な気分だ。
 それを見たリーリーと特に何も言わずに、苦笑を浮かべるだけ。

「まぁ、気にしてもしょうがないし、昼飯でも作るか。マギさんとクロードが戻ってこないなら、インベントリに保存しておけばいいしな」
「今日のお昼は何?」
「さっき作ったうどん。出汁は、鶏肉と野菜のスープを塩コショウで味付けかな? その辺は、作りながらおいおい」
「それってラーメンっぽいね」
「おっ、卵麺か。作れるかな? まあ、アイティアとしては、いただきだな」

 俺は、そう笑い返し、調理を始める。午後、あんなトラブルを呼び寄せているとは、露ほども思わずに。

N5011BC-95
hsadas
第1話 三国共同部隊(後編)




 6

「コリーーーーーーン!
 |鎧《よろい》だっ。
 俺の鎧と剣を持って来いっ」

 ジョグが後ろも見ずに叫んだ。

「分かったっ」

 と大声で返事した騎士が従卒たちに何事かを命じている。
 あれは確かジョグ・ウォードの側近で、コリン・クルザーとかいう騎士だ。
 バルドはかたわらのザイフェルト団長に、立会人をアーフラバーン伯爵に頼んでくだされ、と告げた。
 そしてジュルチャガを目で探した。
 いた。
 まだ命令もしていないのに城門の中に駆け込んでいた。
 察しのよい男である。

 ザイフェルトが呼ぶまでもなく、アーフラバーン伯爵が城から出て来た。
 ザイフェルトの頼みを聞いてうなずき、ジョグの前に進み出て、

「貴公がジョグ・ウォード卿か。
 私はティルゲリ伯爵アーフラバーン・ファファーレン。
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派遣軍の軍杖を預かる者だ。
 この決闘の見届け人をさせていただくが、よろしいか」

 と言った。
 ジョグはアーフラバーンのほうを見もせず、あいかわらずぎらぎらした目でバルドのほうをにらみつけながら、

「ああ」

 とだけ答えた。
 コリンと従卒がジョグの鎧を運んできて、着せ付けを始めた。
 といっても、下着部分や胴の部分はそのままである。
 アーフラバーンが城の中の闘技場に移動するよう勧めても、ジョグの答えは、

「ここでいい」

 というものであり、決闘の方法と決着の付け方、勝利者の権利について確認しようとしても、

「好きな得物で相手を殴り、負けたほうが勝ったほうの言うことを聞く。
 それだけだ」

 と返すばかりだった。
 バルドから目線をそらそうとしない。
 まるで目を離せばいなくなってしまうとでもいうかのように。
 ジョグがほとんど鎧を装着し終えるころ、ジュルチャガがユエイタンを引っ張って現れた。
 その後ろから騎士ナッツと騎士ニドと騎士フスバンが、バルドの鎧と剣を持ってやって来る。
 コリン・クルザーは、ジョグの馬の馬具やひづめの具合を確認すると首をなで、耳元でダストしっかりな、と声を掛けた。
 そして、従者と一緒にジョグを馬に乗せた。

 ジョグが馬上から見つめる前で、バルドは落ち着きはらって革鎧を脱いだ。
 胴、腰、両足、両手、そして頭に鎖かたびらを着ける。
 その上に順番に金属鎧を着けていく。
 王からの下賜品で、職人たちが突貫作業で調整してくれたものだ。
 バルドが支度を終えると、ユエイタンがすぐ横に歩いてきて、そして足をたたんで腹を地につけた。

 おおっ、というざわめきが広がる。
 もうこのころには城の中にいたパルザム、ゴリオラの騎士たちも城の外に出て、二人を取り巻いて様子を見ていた。
 ざわめきは、よくもここまで馬を訓練したものだという感嘆と、あんな状態から重装備の騎士を持ち上げられるのか、という危惧の混ざったものだった。
 実は一番驚いたのはバルドだ。
 ユエイタンがこんなことをするとは思いもしなかった。
 が、驚いていないふうを装って、この巨大な愛馬にまたがった。
 ユエイタンは、バルドを乗せたまますうっと立ち上がった。
 もう一度ざわめきが起こった。
 助けも借りず馬に乗ったバルドと、事もなげに立ち上がったユエイタンへの感嘆である。
 と、ジュルチャガがユエイタンに近づいて、よくやった、あとでうまい野菜食わしてやるぞ、と話し掛けている。
 そして、硬い鎧に包まれたバルドの両の足をしっかりと|鐙《あぶみ》にくくりつけた。

 こうして二人は馬上からお互いを見つめた。





 7

 ジョグ・ウォードの乗馬ダストは漆黒の美しい毛並みを持った巨馬で、目と目のあいだに白い毛が一筋生えている。
 ジョグの鎧も全身黒い。
 髪もひげも目も黒いから、まさに全身黒ずくめで、その場所だけが陽光を吸い込んでいるかのようである。
 いつのまにか目のぎらついた光は消え、夢見るような柔らかい視線をバルドに向けている。
 目線はバルドに向けたまま、右手を開いて斜め後ろに突き出した。
 コリン・クルザーが従卒に手伝わせてジョグの剣を運んできた。
 ジョグが柄を持つと、二人は|鞘《さや》を抜いていく。
 黒みがかった長大な剣身が姿を現していく。
 ゴリオラの騎士たちが、引きつった目でそのあまりに巨大な鋼の塊を見ている。
 鞘が抜けきると、剣先はどさりと地を打った。
 まったく考えられないほどの長さである。
 幅も広くさぞ重かろうその剣を、ジョグは右手一本でぐいと持ち上げ、左手を添えて軌道を修正すると、右肩の上に乗せた。

 対するユエイタンは、わずかに薄墨を混ぜたような白馬である。
 バルドは、紺色の地に細かくたたき込まれた黒銀の金属板を張り付けた鎧を着ている。
 左胸には王国の紋章が浮かび上がり、これが将軍だけに許される装備であることを教える。
 ジュルチャガと騎士ニドが、バルドの剣を左側から差し出した。
 バルドはそれをユエイタンの首の上で受け取った。
 二人が鞘を抜いていくと、いぶした銀色の剣身が現れていく。
 今度は声に出して驚きを表す者もいた。
 ジョグ・ウォードの剣にも負けない長大な剣である。
 宮殿の武器庫をあさって見つけたのだ。
 長さはジョグの黒剣とほぼ同じか、もしかすると少し長い。
 ただし、ジョグの剣が根本から先までが幅広であるのに対して、バルドの剣は幅はそれほどでなく先にいくほど細い。
 その代わり、厚みはジョグの剣に勝っている。

 ジョグの剣にせよバルドの剣にせよ、ここまで長く重い剣は、ふつう馬上では使わない。
 馬上の騎士をたたき落とすために使う。
 ここまでの巨大さだと、|膂力《りよりよく》で振り回すことは不可能だ。
 もっともジョグ・ウォードにはその常識は通じないのだが。

 ジョグが馬を反転させ、バルドから遠ざかって行き、百歩少々離れると振り返った。
 ジョグは剣を右肩にかついだまま、手綱をくらに巻き付け、左手で面頬を下げた。
 バルドも、剣を右肩に預けて手綱の余りを結わえると、左手で面頬を下げた。
 二人とも手甲は鉄でなく革のものを使っている。
 でなければこの剣を握り込めないからだ。

 バルドには、古代剣で闘うという選択肢もあった。
 古代剣の扱いに慣れてきた今のバルドなら、ジョグの初撃さえかわせば一撃で勝負を決めることができるだろう。
 しかしそれはどうしても、策を用いた戦い方になる。
 この決闘は、それではだめだ。
 正面から正々堂々と雌雄を決するのでなければ、全軍の信頼は得られない。
 その結果ジョグが勝つとしても、虚を突くような勝ち方をするよりジョグに指揮権を与えたほうがましだ。
 体力も気力も若返っているとはいえ、筋力もしなやかさも、今のジョグのほうが上だろう。
 それでもこの一番は正面から闘う、とバルドは決めたのだ。

 ジョグの馬が走り始めた。
 まったく同時にユエイタンも走り始めた。
 兜の中でジョグの瞳は炎のように燃えさかっているだろう。

 走る、走る。
 特別な馬だけが持つ驚異的な加速を見せつけて二頭の巨馬が走り寄る。
 大地を踏み割らんばかりの爆発的な足音は、馬はそれ自体が怪物的な生き物であることを雄弁に語っている。

 二人の騎士は圧倒的な重量感を持つ大剣を振り上げた。
 またたく間に二人はお互いを射程にとらえ。
 両の手で大きく振り上げた大剣を。
 お互いの頭上に振り下ろした。
 剣と剣とが正面からぶつかり合い。
 天と地が砕けるような激突音が鳴り響いた。




 8

 雷神ポール=ボーが、森の神ウバヌ=ドドの美しき妻イーサ=ルーサを奪わんとして〈雷槌〉をウバヌ=ドドに振り下ろしたとき、ウバヌ=ドドとイーサ=ルーサの息子キドがこれを〈大地の剣〉ではじいた。
 はじかれた〈雷槌〉のすさまじい破壊の力は大地を大きくえぐった。
 このとき出来た裂け目が、現在テューラからメルカノ神殿自治領にかけて大地を走る〈大亀裂〉であり、少年キドこそのちの戦神マダ=ヴェリである。

 見守る誰もがこの神話を思い出した。
 ジョグ・ウォードは、この長大な剣を半日でも振り回し続けられる男である。
 その男が、ただの一振りに半日分の精力を注ぎ込んだ。
 それに対抗できるだけの気迫の斬撃を老騎士も繰り出した。
 この二人の巨軀の騎士が巨馬にまたがり渾身の力を込めて突進した、その突撃力がただ一点でぶつかり合ったのである。
 鳴り響いた轟音に、さしもの歴戦の勇士たちも魂を削られたかと思った。

 互角。

 二つの破壊の力は互角だったのだろう。
 大剣は二人の騎士の顔と顔の前で激しく競り合っている。
 と、二人は同時に剣を引いた。
 二頭の馬も、一歩ずつ後ろに引いた。
 そして二人は高々と剣を持ち上げ、相手の頭上に振り下ろした。
 再び金属同士がぶつかり合って火花と激突音を発した。

 これも居並ぶ騎士たちの度肝を抜く光景であったろう。
 両手大剣というものは、振り回して加速をつけて使うものである。
 馬に乗って振るとすれば、馬の突進力を利用して剣に威力を乗せる。
 腕の力で振り回して使えるような剣ではないのである。
 二人の|膂力《りよりよく》は、およそ人間の常識を飛び越えたものだ。
 それは、戦慣れした騎士たちであるからこそ分かる。

 二度目の激突は、バルドの腰に悲鳴を上げさせた。
 右肩の後ろも鋭い痛みを発している。
 バルドの闘志は炎のように燃えさかり、その痛みをかき消した。
 バルドの全身から吹き上がる闘気は離れて見守る騎士たちの顔を焼いた。
 それはバルドの精一杯のあがきである。
 瞬発力ではジョグのほうがまさっている。
 持久力ではジョグのほうがはるかにまさっている。
 そのジョグの斬撃に数撃だけでも対抗するには、ただ気力をもってするしかない。

 バルドはもう一度剣を引き上げた。
 腕の筋肉が、みしみしと悲鳴を上げている。
 だが無理やりに、高々と振り上げた剣に|腕力《うでぢから》で加速を与え、ジョグの頭に振り下ろした。
 ジョグはといえば、剣をぐいと右後ろに引き、激しく腰を回転させながら黒剣を振った。
 剣先が落ち込みもせず、そのまま真横に剣は振り抜かれた。
 驚異的な筋力であり、バルドにもこれはまねができない。
 そしておそらくジョグ・ウォードは、何度でも繰り返してこれができる。

 バルドの剣はジョグの左肩を打った。
 ジョグの剣はバルドの胴体の左に食い込んだ。
 衝撃に目がかすむ。
 だが強引に意識の手綱を握りしめ、足の動きでユエイタンに指示を出した。
 ユエイタンはバルドの意図をあやまたず酌み取り、後ろに数歩下がった。

 ジョグは兜の中でどんな顔をしているだろうか。
 苦痛に顔をゆがめているのか。
 宿敵を今にも殺せる予感に笑みを浮かべているのか。

 ままよ!

 バルドの気持ちが攻撃に向かった瞬間、ユエイタンは突如前進した。
 先ほどと逆側、つまりジョグとその馬を左に見ながらの突進である。
 バルドは残った力を振り絞って大剣を持ち上げた。
 左から右へとジョグをなぎ払う剣筋だが、もう振り回すほどの力はない。
 馬の突進力を借りて剣を相手にたたき付けるのが精一杯である。

 ジョグは上から押さえ込むような形でバルドの剣を受け止めた。
 ぎり、ぎりと、大剣同士がつばぜり合う世にも珍しい光景を、観戦する騎士たちは目にすることになった。
 ここじゃ!とバルドが思うと同時に、ユエイタンが体を持ち上げた。
 ジョグの体が持ち上がる。
 態勢をくずされかけたジョグは、逆にぐいと伸び上がり、思い切り体重をかけてバルドの剣を押し返そうとした。
 腰は完全に|鞍《くら》から離れ、|鐙《あぶみ》に掛けた足と太ももの挟む力で自らを支えている。

 バルドは手首を返して剣をねじった。
 その剣の上をジョグの剣が火花を立てながら滑っていく。
 渾身の力で押し返そうとしたその相手に、力をそらされてしまったのである。
 ジョグは完全に態勢を崩し、その右足が鐙からはずれた。

 すかさずユエイタンは一歩下がり、跳躍した。
 バルドは体全体で大剣を支えながら角度を調整した。
 剣はジョグの顔をとらえた。
 大剣の重量とユエイタンの跳躍から生まれた衝撃力がジョグの顔に炸裂したのである。
 ジョグは吹き飛ばされるように落馬した。

 勢いのまま数歩を走ってから、ユエイタンは反転して静止した。
 バルドには、もう攻撃を繰り出す力は残されていない。
 ジョグは倒れたまま起き上がろうとしなかった。





 9

「勝者、バルド・ローエン卿!」

 アーフラバーンの宣告が、ひどく遠い。
 騎士ナッツが駆け寄って剣を受け取ってくれた。
 剣先は地に付き、今にも取り落とすところだったのだ。
 またもユエイタンが腹ばいになり、騎士ニドと騎士フスバンに支えられながらバルドは下馬した。
 ジュルチャガが驚くべき手早さで兜を脱がし、頭部の鎖かたびらをはずしてくれた。

 バルドは荒い息をついた。
 胸が空気を激しく求めてけいれんしている。
 汗は噴き出し、髪はべっとりとひっつき、足元はふらつく。
 このわずかな時間にまるで体重が半分に減ってしまったかのように自分の体が頼りない。
 当然である。
 ふつうの人間が何日もかけて使う力を、ほんの一瞬のあいだに使い切ってしまったのである。
 すべての筋肉は力を失ってしまったようで、立っていることさえ難しい。
 それでもバルドはおのれの足に命じて、ジョグに歩み寄って行った。

「ジョ、ジョグ!」

 金縛りが解けたようにコリン・クルザーがジョグに駆け寄った。
 そして、寝たままのジョグの兜を器用にはずした。
 ジョグもまた汗まみれである。
 と、ジョグが右手を上げて差し出した。
 バルドに。

 バルドはまだおぼつかない足を進め、ジョグの手をつかんで引き起こした。
 といっても立ち上がらせたわけではない。
 それは無理だ。
 バルドの精一杯の力は、ジョグの上半身を何とか引き起こせたのみである。

 ジュルチャガがバルドに、コリンがジョグに、水筒を差し出した。
 二人はこの命の甘露をごくごくと飲み干した。
 汗がぶわりと噴き出してくる。
 水が体に入って、こわばっていた体がやっと動き始めた。
 しばらく呼吸を調えたあと、ジョグはバルドに言った。

「化け物じじいめ」

 その目にはもう獣のような|猛々《たけだけ》しさはなかった。
 ジョグはなんと自分一人で立ち上がってみせた。
 いつもながら驚くべき男である。
 ジョグは自身の部下たちを見回し、|拳《こぶし》を突き出し、大声で宣言した。

「この戦が終わるまで、俺たちの指揮は」

 ここで息を吸い込み、さらに大きな声で続けた。

「バルド・ローエンがとるっ!!」

 ジョグの部下たちは、口々に応諾の声を発した。
 二人はその場で鎧を脱いだ。
 脱がせてもらった、というべきか。

「おい、バルド」

 にこりともせず、ジョグが話し掛けた。
 バルドが、なんじゃと答えると、ジョグは、

「酒、飲ませろ」

 と言った。
 バルドは、おお、うまい牛肉も腹一杯食わせてやろう、と返事を返した。
 あとで知ったのだが、ガイネリアには牛は少なく、ジョグといえどもそうたくさんは食べられない。
 だから、このときジョグが舌なめずりをしたのも無理はなかったのである。
 実のところ、酒と肉を欲しかったのはバルド自身だ。
 もうへたりこんでしまいたいほど、消耗していた。
 バルドの体こそが、酒と肉を欲していた。
 バルドはジョグとともに歩き始め、アーフラバーンも酒席に誘った。
 そしてザイフェルトに、あることを命じた。
 うなずいたザイフェルトは、居並ぶ三国の騎士たち全員に響き渡る大声で叫んだ。

「ただ今、三国連合軍総指揮官バルド・ローエン大将軍から命令が下った。
 今日の夕食では、|酒保《しゆほ》が開かれ、全員に一杯ずつ酒が支給される!」

 もちろんこの場合の酒とは、いつも食事に添えられる水で薄めたワインのことではない。
 酒精のたっぷり入った大ひしゃく一杯の蒸留酒のことである。
 全員から大きな歓声が上がったのはいうまでもない。

 門の脇に、剣匠ゼンダッタが立っている。
 ゼンダッタはコリン・クルザーをつかまえ、

「そのジョグ・ウォード将軍の剣はこちらに」

 と指示を出した。

「え?
 お前、誰だ」

「私はバルド大将軍直属の剣匠だ。
 それはジョグ将軍の主武器とお見受けする。
 今の決闘で相当に痛んだはず。
 ただちに研いでおかなければならん。
 こちらにお運びいただきたい」

「え?
 いや。
 バルド将軍の剣が先じゃないのか」

「バルド将軍の剣はあとでよい。
 まずはジョグ将軍の剣だ。
 さあ、急がれよ」

「お、おう」

 ちょっとばかりうれしそうな表情で、コリン・クルザーは従者たちに命じて剣を鍛冶場に持って行かせた。
 ゼンダッタがバルドの剣はあとでいいと言ったのは、バルドがもうそれを使わないことを知っていたからなのであるが、それをわざわざ言うこともない。
 ふと振り返ると、ジュルチャガがユエイタンを引いてきている。
 考えれば、今日の殊勲者はこの馬だというのが正しい。
 筋肉の力でも素早さでもジョグに劣り、耐久力では比べるべくもないバルドにとって、唯一まさっていると思えたのが、馬である。
 ユエイタンの体の大きさと強さ。
 そしてバルドの意を酌み取って動く利発さと素早さ。
 これがなければ勝利はなかったのである。

 ユエイタンにたっぷりとうまい物を食わせてやってくれ、というバルドの言葉に、ジュルチャガは片目をつぶって返事した。





************************************************
7月7日「トライの悲劇」に続く

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こと出来る筈ないじゃない」
「お母さんはそう思うんだ」
「そうよ。何やっても駄目なのに」
「口先だけだっていうんだね」
「そうよ。違うの?」
「だったらそう思っていいよ」
 ここでもだ。こう返す希望だった。
「お母さんがそう思いたいんならね。それでね」
「それでって何よ」
「本当に。僕がどうにかできたら」
 どうかというのだ。彼が勉強で結果を出したならばと。
「お母さんはどうしてくれるのかな」
「そうね。有り得ないけれどね」
 その可能性を完全に否定したうえでだ。母は息子に適当なことを言った。
「その時はあんたの言うこと何でも聞いてあげるわよ」
「何でもなんだね」
「ええ、何でもね」
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する顔で見ながらだ。母は告げた。
「聞いてあげるわよ」
「その言葉忘れないでね」
「お母さん嘘は言わないわよ」
 完全にだ。希望の言葉を信じていない言葉だった。
「何があってもね」
「そうだね。それじゃあ」
「何もできない人間に限ってそう言うのよ」
「けれど言った言葉は忘れないでね」
「忘れないわよ。何かできればね」
 完全に否定する言葉でだ。息子に約束した。しかしだった。
 希望はその言葉を忘れなかった。確かに聞いたのだった。
 そしてそのうえでだ。千春と会ってプールの帰りにだ。こう彼女に言ったのだった。
「あのさ。またさ」
「またって?」
「また千春ちゃんのところに行っていいかな」
 こう千春に尋ねたのである。
「明日にでもね」
「明日になの」
「うん。明日にね

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乗ったフロントマンは予想外の質問にそう答えてくる。それでも、どうしてそのようなことを問われるのかを必死で考えているようだ。

「実は、契約書を作成してくれるようなところを探しているのですが???。」
源次郎が正直に言う。最初からそう言えば良かったとの反省の意味を込めてだ。

「あああ???、そ、そういうことでございましたか???。
では、お調べいたしますので、少々お時間を頂戴できますでしょうか?」
三崎というフロントマンはそう言ってくる。さすがに即答は出来ないようだ。

「では、30分ほどしたらもう一度電話をしますので、それまでに調べておいていただけます?」
源次郎は一度電話を切ることにする。
このまま待っているのも些か辛い気がしたからだ。

「あっ! はい、では、そういうことで???。」
フロントマンもそう応じてくる。
だが、どことなく自信なさげに源次郎には聞こえた。


(つづく)

第2話 夢は屯(たむろ)する (その1258)

「この近くなんですか?」
源次郎は、シェフの誘いに乗ってみる気になる。
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と感じれば「ごめんなさい」と断れば良い。そう思った。

「あ、はい???。何でしたら、電話を掛けてみましょうか?
手が空いているようだったら、ここに来てくれるでしょうし???。」
シェフは源次郎の答えを待つまでもなく、そう言いながらも受話器を手にする。
そう、つい先ほど源次郎が掛けていたあのピンク電話である。

「じゃ、じゃあ、お願いできますか?」
源次郎はもうそう言う他はない。


シェフは慣れた手つきでそのピンク電話の後ろ側へと手を入れる。そして、何やら鍵のようなものを回し

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。」
美由紀もそう応じて、再び眼を閉じる。
それでも、源次郎の首に回した両腕を緩めることはしなかった。

源次郎は眼を閉じた美由紀の顔をマジマジと見ている。
そう、息をすれば、その息を美由紀が感じ取れる至近距離でだ。

「か、可愛いい???。」
源次郎は囁くように言う。
本音である。別に、美由紀のご機嫌を取るつもりではない。

美由紀は源次郎の左腕を首の下に置いている。
つまりは、源次郎の腕を枕にした状態なのだ。
こうした姿勢で、こうした視点で美由紀を見るのは初めてだった。

アイシャドーもない。もちろん、付け睫毛もしてない。
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然な睫毛が瞑った目を縁取っている。
化粧をしている感じも無い。
それなのに、その顔は薄っすらとピンク色をしている。
そして、小さくて薄い唇にだけ、それと分かる紅が差されている。
そう、まるで高校生の少女のようだ。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その984)

源次郎は改めてキスをしに行く。
実は、それだけで、そうしようとするだけで、身体が震えた。
初恋の相手と初めて事に及ぶ時のようにだ。

自らは動かない美由紀にキスをする。
少女趣味かもしれないが、まるで白雪姫にキスをする王子様の気分になる。
源次郎は、そうした場面を、この美由紀相手に想像したことは無かった。
だが、今は、これが現実に起きているのだ。
そう思うと、身体が震えるのも納得できる。


美由紀は、ごく自然に源次郎のキスを受け入れる。
目を瞑っていても、その瞬間だけは寸分の狂いもなく感じ取れるものらしい。
そして、やや控えめにその唇を開く。

源次郎は、意識し

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第十九話 人狼その十三

「それではそうなるの当然だ」
「外部の人間に社内の秘密をばらすわ大事な商談を自分勝手に動いては破談にするわ処理に行くように言われても嘘をついて行かないわでのう」
「バイトでもそこまでやったら訴えられる」
 牧村は今度は一言だった。
「よく訴えられなかったものだ」
「上司は『心を広く持ちましょうよ』と言われた時点で切れた」
「心を広くって」
「僕達でもそんなことやられてそんなこと言われたら間違いなく切れるよ」
「殺す」
 赤鬼の言葉は本気だった。
「そうした奴にそうしたことを言われたらな」
「同感」
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「絶対にそうするね、僕も」
「そこで仏とまで言われたその上司も切れて社長に言って懲戒免職となったのじゃよ」
 ここで遂に、なのだった。
「会社がそ奴に受けた損失を全部実家に請求したうえでな。訴えられはせんかった」
「それで家に戻ってどうなった?」
「同じじゃよ。反省することもなかったからのう」
「やはりな」
 牧村はそれを聞いて納得した顔で頷くのだった。
「それで一族にも見放されたか」
「禁治産者に認定されたわ」
 つまり完全な社会的無能力者と認定されたのだ。
「後は知らん。どこぞにずっと幽閉みたいにされとるそうじゃがな」
「まあそうなるよね」
「だよねえ」
 妖怪達も納得することだった。
「そこまで馬鹿だとね」コーチ オンライン
「どうしようもないよ」
「これがわしが今まで知ることになった奴の中で一番の愚か者じゃ」
 博士はここでまた話した。
「どうじゃ。凄いじゃろ」
「凄いなんてものじゃないよ」
「三歳か四歳の子供じゃないよね」
「れっきとした成人じゃった」
 それでもそうだったというのである。
「それでもな。そんな有様じゃった」
「どうしようもない奴は何処にもいるな」
 牧村は静かに言い捨てた。
「とはいってもそこまでの愚か者はそうはいないだろうがな」
「他にも権力に反対するのならテロリストもいいとほざいておった愚か者もおったのう」
「それも酷いね」
「どんな馬鹿?本当に」
 またしても呆れる妖怪達だった。
「っていうかそれって」
「だよねえ」
「そこまで馬鹿だって生きていけるのかな」
「だから破滅したじゃない」
「それもそうか」
 妖怪達の間で出た答えはそれであった。
「無理か、やっぱり」
「最後は幽閉なんてね」
「それまでが実に酷いものじゃった」
 博士ですらその顔を思いきり顰めさせていた。
「問題外にな」
「だよねえ。とてもね」
「有り得ないよね」
「まあそんな馬鹿は滅多におらん」
 博士もまたあらためて言ってきた。
「はっきり言って二度と会いたくはない」
「まあ僕も会いたくないね」
「僕も」
「私もよ」
 そしてそれは妖怪達も同じであるのだった。
「そんなふざけたのと付き合ったらこっちまでえらいことになるよ」
「しかも責任取らないしおまけに悪いとも思わないって」
「つける薬ないじゃない」
 こうまで言う妖怪達だった。

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第二話 天使その九

「砂かけ婆に塗り壁か」
「やっぱり知っておるぞ」
「意外と博識だな」
「化け物が。どうしてここにいる」
 牧村は今度は身構えつつ彼等に問うた。
「まさか。博士を」
 その言葉と共に牧村の身体が光った。激情が爆発しそれにより顔が変わりあの髑髏と鎧の騎士となったのであった。彼等の姿を見ての警戒もそこにはあった。
「貴様等、ならば」
「やはりそうじゃったな」
 だがここで。その博士の声が聞こえてきたのだった。
「博士、いるんですか」
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 本棚の間から姿を出す。そこから牧村が言う化け物達に囲まれて姿を現わしたのであった。見れば元気なものだった。
「やはりな。君じゃったか」
「俺だった!?一体」
「君は天使なのじゃよ」
「天使だと。俺が」
「まずはその姿を元に戻すのじゃ」
 こう牧村に告げる。
「よいな」
「戻す。どうやって」
「一度変身したのではなかったのか?」
 牧村の前に来て問う。
「ではわかるじゃろう」
「昨日のことも知っていたんですか」
「この連中から聞いたのじゃ」
 また述べる博士であった。
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「この化け物達から」
「妖怪とも言うがな」
 博士は化け物という呼び方は好きではないらしい。あえてこう呼んできた。
「まあ聞いてはおる」
「そうだったんですか」
「僕が教えたんだよ」
 ふわふわと飛ぶ軽そうな丸いものだった。見ればそれがやけに多く部屋の中を飛んでいる。
「博士にね」
「人魂か」
「何じゃ、知っておるのか」
「漫画だの小説だので読んでいた」
 博士に対して素っ気無い様子で答える。
「こんなものだというのはな」
「ふむう、意外と妖怪について知っておるのう」
 それを聞いて腕組をして述べる博士であった。
「それでは話が早いのう」
「話が早いだと」
「うむ。まあとりあえずはじゃ」
 一旦話を元に戻してきた博士であった。
「その変身を解こうぞ」
「どうやればいいんだ?」
 実はそれがわからない牧村だった。声に微かに戸惑いが見られる。
「そもそもどうして変身するかどうかもわからないというのにだ」
「念じればいいのじゃ」
「念じる!?」
「そうじゃ。例えば変身したい時じゃ」
「今までは自然となっていたんだが」
「それが違うのじゃよ」
 そうではないと牧村に対して説明する。
「あの虎人と闘った時でも今でも危険を察したな」
「確かにな」
「危険を察して無意識のうちに変身したのじゃよ」
「そうだったのか。それでか」
「だから本人が望めば変身できるのじゃ」
 こう述べたのであった。
「それでいいのじゃ。わかってくれたか」
「では変身を解く時は」
「同じじゃよ。人間の姿に戻りたいと思うだけじゃ」
「それだけか」
「試しに念じてみよ」
 牧村に対して勧める。
「早速な。ほれ」
「わかった。それではな」
 牧村は博士の言葉に従いすぐに念じてみた。するとそれでもう変身が解け元の姿に戻った。紛れもない牧村来期になったのだった。
「確かにな」
「どうじゃ。本当にすぐだったじゃろうが」
「信じられん話だ」
 牧村は人間に戻った己の姿を見て述べた。まだ信じられないといった顔であった。

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第二話 群星集まるその八

「そうだな」
「御言葉ですがその通りです」
「我等三河武士」
「竹千代様の為には火の中水の中」
「地獄までも御供致します」
 畏まってだ。真剣な顔で述べてきたのである。
「ですからここは」
「何があろうとも」
「止めはせぬ」
 吉法師は彼等のその言葉を受けて述べた。
「止めたところでついて来る様な連中ではな」
「有り難き御言葉、それでは」
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「我等もまた」
「三河武士は格別じゃな」
 吉法師はその彼等を評してこんなことを言ってみせた。
「主への忠義、まさに鋼の如きじゃ」
「誰もが私を見捨てようとはしません」
 竹千代はその彼等を見て微笑んでいた。
「私には過ぎた者達です」
「さて、それはどうかな」
「違うのですか?」
「人は家だけ、主従だけでついては来ないものだ」
 吉法師はこう竹千代に話すのだった。
「その人も見るのだぞ」
「人をですか」
「竹千代、己を知れ」
 また竹千代に対して継げた。
「よくな。その為にも行くぞ」
「はい、それでは」
「では我等も」
「竹千代様、御供致します」
 こうして五人が共に来てだ。吉法師と竹千代は馬で駆けた。
 吉法師はかなり荒く速く馬を駆った。プラダ バッグ メンズだがそれでも幼い竹千代は満足についてきた。
 そして泳ぎもだ。吉法師のその泳ぎについて来る。最後まで離れることはなかった。
 大の大人である五人も肩で息をしている。竹千代も死にそうになっている。しかしそれでもだ。彼は最後までついてきたのである。
「ついて来たな」
「はい」
 吉法師の言葉にこくりと頷く。今は服を着て馬をつないでいる木のすぐ傍に向かい合って座りそのうえで柿を食べながら話していた。吉法師が採った柿である。
「何とか」
「いつもついて来るな」
「やるからにはと思いまして」 
 竹千代は柿を食べながら応えた。それは渋さが微かにある甘さに満ちたものだった。
「それで」
「やるからにはじゃな」
「はい、何があってもやり遂げたいと思っていますから」
「それは馬に泳ぎだけではないな」
 吉法師はここでこう問うた。
「そうじゃな」
「おそらくは」
 そうであるというのだった。
「剣も学問も」
「馬と泳ぎ、それに学問はしかとしておくのじゃな」
「この三つはですね」
「身体を動かした後で書を読むと実にいい」
 吉法師もまたその甘さの中に渋みを含ませている柿を食べている。そうしてそのうえで話すのだった。
「頭によく入るぞ」
「左様ですか」
「学ぶのじゃな。何でもな」
「わかりました」
「どうも御主はうつけではないようじゃが」
 おおうつけと呼ばれている自分自身も語ってみせた。
「それでも。そのやり遂げるということはよいことじゃな」
「そうでないと気が済みませぬ」
「よい、その為には何でも我慢できるな」
「余程のことでも」
「では人質の今を耐えよ」
 何故ここにいるかは最早愚問である。竹千代は他ならぬ織田家への人質なのだ。彼の家松平家は嫡男をそれに出さなければならない程弱い立場なのだ。
「わかったな」
「わかりました、では今は」
「やがてわしはこの尾張を統一する」
 吉法師は笑ってこう言ってみせた。

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